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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
ですから、観念いたしやした。世間では、兵助はロクでもない奴だが、親爺が仏師で、徳人であったその報いで、ああして無事に長生き――盗人としてはでございますよ――をしている、とこう言っているそうでございます。そこで兵助も観念しましてな、こうしておとなしくして、牢畳の上で虱をとって神妙に納まっているのでございますが、なあに、お奉行様がやれとおっしゃれば今晩にも、こんな窮屈なところは飛び出してお目にかかりません」
「ふむ――そんなことをやれとは言わない、しかし、お前に少しばかり相談があって来たのだ、早くいえば頼みたいことがあって来たのだ」
「これは、異な仰せでございますな、お奉行様が盗人に頼みたいこととおっしゃるのは――これは、どうしても頼まれて上げなければなりますまい」
こうして奉行が、囚人である兵助の耳に口を当てて、ささやく。つまり、耳こすりという段取りになりました。
その結果が――兵助の呑込みとなって、
「ようがす。その話は、牢へ新参の口から聞かねえ話でもござりません。なかなかしたたか者でございますぜ、わっしの眼の届く奥州五十四郡のうちには、まずそんなしたたか者はございませんから、つまりそれは、旅烏の、風来者の――といって、またたびで賽の目をちょろまかそうという三下奴の出来損いにやれる芸当じゃございません。