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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

「どうかして、ここへ、弁信さんを呼んで来ることはできないか知ら」

「ところさえわかれば、できないことはないでしょう」

「それがわからないのです。さっきは、富士山の後ろの方から面を出したから、たしか、あの辺にいるのかも知れません」

「富士山の後ろって、お前……そんなお前、広いことを言っても、わかりゃしないじゃないの」

「ああ、弁信さんに羽が生えて、この海を渡って、飛んで来てくれるといいなあ」

「弁信さんて、そんなにいい人なの、憎らしい、弁信坊主――」

といって兵部の娘は、海を隔てて罪もない富士山を睨みました。

「お嬢さん、千鳥の笛を吹いてみましょうか、千鳥の笛をね」

茂太郎は、兵部の娘のひがみをよそにして、蘆管を火にかざしてあぶり、おもむろに唇頭へあてがって、

「まず大雀を吹いてみましょうか」

千鳥を吹くというから、「しおの山」でも吹くのかと思うと、そうではなく、単調な、物悲しい、尻上りになって内へ引込む連音を吹いて、

「次は中雀」

これもほぼ同じような、単調な連音。

「今度は黄足ですよ」

これは、以前のよりは、ズッと音が高くて強い、けれども、やはり特別の節調があるというわけではなく、誰が聞いてもヒューエヒューエと続けさまに鳴るだけのものです。