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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

「ああ、大丈夫です――蘆管が聞えていますよ」

駒井甚三郎もまた、歩みをとどめて、

「蘆管とは何ですか」

「お聞きなさい、亮々として、笛に似て、笛でない響きが、海の上から聞えましょう、あれは茂太郎が、蘆管を吹いているのです」

「なるほど――」

耳を傾けて、海表を渡り来る管笛の音を納得した駒井甚三郎は、

「最初は千鳥かと思いました」

「遠くなり近くなるみの浜千鳥、啼く音に潮の満干をぞ知る……といったものです。お聞きなさい、今は全く音調が変りました」

「なるほど――」

「あれは遼東九月の歌です」

「遼東九月の歌とは……」

「かりに拙者が名をつけて吹かせてみたものです。唐の岑参の歌、遼東九月蘆葉断つ、遼東の小児蘆管を採る……あの心を取って吹かせてみると、どうやらものにはなりました」

「ははあ」

「あの子供はあれで一種の革命家ですね、音を出すと、おのずから節調をなすところが不可思議です。あの子供の歌を聞いていると、でたらめが韻を踏んで、散文が直ちに詩になって響くのが妙です。普通、詩歌というものは、内容があって後に形式が生ずるので、たとえば、歌わんとする思想があって、それが十七文字になり、三十一文字なりに現われたり、感情があって、しかして後に平仄の文字が使用されるのだが、あの子供のは全然それが逆に行っています。