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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页
「いかがですか先生、ここを下りますると、あの一枚岩の上へ出ますが、酒肴を持たせてあれへ参り、あの上で風景をながめながら、お話を伺いたいものでございます」
僧形の同職がすすめるのを道庵は、首を横にふって、
「まあ、せっかくだが、興は満なるを忌むということがあるから、この辺でチビチビやりながら、寝覚の床を鷹揚にながめて、貴殿の人国記を承っていれば、もうもうこれ以上は罰が当る、このうえ押して、谷からすべり落ちて、川へでもころげこんでごろうじろ、生きちゃあ帰れねえ、ホラ、この通りの足もとなんだから」
といって、道庵は、フラフラと立ち上って見せました。
道庵の足もとのあぶないのは、今にはじまったことではない。その足もとのあぶないことを自覚して、そうして、多少の冒険をも慎もうとするところに、道庵の聡明さがあるといえばあるのです。
「足もとが、こんなだから、足もとの明るいうちに失礼して帰ると致しましょう、どうもはや、おかげさまで寝覚の床をとっくりと見物したから、寝ざめの悪いこともござるまい――ああ、そうだ、浦島の伝説、あれはあんまり当てにならねえ」
といって道庵は、あぶない足もとを踏みしめて縁を下りました。