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だいぼさつとうげ

大菩薩峠16

中里 介山

中里介山『大菩薩峠16』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 268,946 字 · 520 页

青空文庫

「せっかく隠し穴をこしらえて、今度という今度は、十八文をとっちめたと安心をしていると、また、つるりと脱けられて、上げ壺を食わされた、のろま野郎――勝手口へ廻って、当分のあいだ窮命していろやい」

「面目しでえもねえ」

以前の二人の三下は、親分の覚えめでたく、たっぷりとお余りものにありついているにかかわらず、哀れをとどめた一人の三下は、台所へ追放を命ぜられてしまったのは、何か相当重大な過失があったと見える。そこで、一座が甚だ白け渡った時分に、突然、

「江戸ッ子、いやはらんかな、江戸ッ子一人、欲しいもんやがなあ、こちの身内に、江戸ッ子一人いやはらんことにゃ、わて、どもならんさかい、ちゃあ」

と、不安らしく呼びかけたのは、安直兄いでありました。

安直兄いが、どうして、こんなに不安な音色を以て呼びかけたか、その内容は、まだよく分明しないけれども、この際、兄いが味方のうちに、一人の有力なる江戸ッ子を欲しい、という希望を述べ出したものであることだけはわかるのです。そこで、一座のおたがいが、改めて一座のうちを見廻しました。

安直兄い――の渇望する江戸ッ子らしい、アクの抜けたのは、あいにく御同座のうちに一人も居合わさない。