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てんぐ

天狗

大坪 砂男

「宝石 七、八月合併号」岩谷書店、1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

(二)掛金が破損していたのなら、戸の桟に手を添えて守るべきである。(三)備えつけの藁草履が汚いとの理由で、廊下を通行する目的のスリッパを更えなかったのは公衆衛生上からも非違である。

結果として、ちらりと目に入ったのはレース飾までついた純白のブルーマースを穿った二本のすらりと肥えた下肢が並立しているけしきで、これは海岸ならばふんだんに、また渓川を渡るときなぞでもさして恥じらわないのが当代の風俗である。それを殊更誇張してみせるなら他意あるものと認めねばなるまい。

突然の出来事だった点は双方同じことだし、喬子が自ら任ずる如き教養人であったなら、「まあ!」程度の発声に止めたなら、当方としても「失礼!」と軽く謝意を表して後に貸借の感情は残らなかったろう。

室に帰っても、胸の揺ぎをどう取り鎮め様もなく、永い手間暇をかけてようやく心理を分析してみた。そして事の原因は、相手の腹の中に身勝手な一方的判断が蟠まっていて、それに感応させられるのだと覚ることができた。喬子の浴せてくる無言のもの、その無反省且不合理な点を指摘し納得させて始めて対等の安定が保てるので、恰も、歪んだ鏡面から反射する光線は歪んだ映像を拡大するだけで、喬子の鏡が正されるなら、こちらの胸にも正しい印象が生ずべき理である。