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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

だからパリ娘のアンナに会った以上に重大であることはむろんだった。

「僕はこれから田中君を捜しに鐘路裏へ行くのです。さあ一つ出掛けましょうか」

と、玄竜は急に元気になってトーストを一度に二片も口に突っ込みながら尻を上げた。

「あたしも行きますわ、……あ、それいいわよ」

と云って、女流詩人は彼の手から勘定書をもぎ取って立ち上ったが、どうしたのか急に表情が強ばって石のように固くなった。間もなく彼女は少しばかりおずおずし出した。おやっと思って玄竜が振り返って見れば、入口のところに角帽を目深く被った背のひょろっとして高い大学生が蒼くひきつった顔をして突立っていた。そしてじろりと玄竜を睨んだ。その時急に悩しげなスペイン民謡のレコードは止り、人々の視線は一斉にこの三人の方へと向けられていた。文素玉はいきなりそそくさと身をかわして入口の方へ行き、ドアを開け若い大学生を引張るようにして外へ出て行った。玄竜は打ち砕かれたように茫然と立ち尽してそれを眺めた。後の方では皆がきききと笑い合う声が聞える。ところが又三四分もしない中に、彼女は慌しく彼の方へ飛び込んで来て、「あたしの従弟ですの」