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てんま
天馬
金 史良
「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页
最後に彼が拠りどころとして思い附いたのは、愛国主義者という美名のもとに隠れて凡てに向って復讎を計るばかりか、勢威のある大村にかばわれることだったのだ。だが朝鮮の文人達の間にも澎湃として時局認識運動が高まり、鮮かに水煙りを飛ばして彼等が自分を追い越し去ったのだ。それを思えば他の連中が歯ぎしりする程憎くてならない。今では貴様を監獄にぶち込むぞという恫喝も出来なくなってしまった。彼に残されているものは方々ゆすり歩いて文なしでも酒の飲める口だけである。それが怪しからんというので、大村はこの僕に寺へ行けと命じているではないか。もう大村にまで見捨てられたからにはどこへも行き所のない人間なのだ。彼は使うだけ使って今になり事新しく自分にお寺へ行けと命ずる大村が憎くてさえならなかった。だがもうほとほと気力もつきてごとりと桃の枝を床の上に落し、彼は目頭に涙さえ浮べながら更に沈んで盃を重ね始めた。
四
凡そ十時頃にでもなったのであろうか、玄竜はへべれけに酔い潰れてしまった。お客は始終入れかわり立ちかわり騒々しかったが、ふと彼の後の方から又新しい客のはいってくる気配がして、歯切れのいい内地語が聞えた。