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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

玄竜はけらけら笑いながらがに股を懸命に泳がせて意地悪く追いかけ始めた。逃げ足だっている彼女は一度振り返って見たとたんに、両手を振り振りやって来る玄竜に一層魂消て悲鳴を上げんばかりになりつつ走って行った。彼はだんだんと追いつくようになるにつれ、益々面白くなって何かを叫んだり喚いたりさえした。土壁の傍で土遊びをしていた二三の子供達が手を叩きながらはやしたてた。が、やっとのことで転げるように文素玉は路地をぬけて黄金大通りへ逃げ出した。丁度その時だった。玄竜が最後の路地を曲ろうとした瞬間に、突然大通りの方から喇叭の音が嚠喨と響いて来た。玄竜はぎくりとして立ち止ったかと思うと、急にどうしたことかぶるぶると体をふるわせ始めたのだ。次の瞬間自分の方から逃げ隠れるように傍の家の煙突の後ろにぴったりと体をすりつけて、息をころし目を爛々と光らして大通りの方を睨んだ。楽隊を先頭に立てた長い行列が神社の方へ向って行進している。何だかそれが自分を包囲し迫って来そうに思われるのだった。ゲートルを巻き附けた中学生や専門学校の生徒達が行けども行けども続き、後の方には国防服を着けた先生やその他新聞雑誌の人や顔見知りの文人達がぞろぞろとついて行く。