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めおとぜんざい
夫婦善哉
織田 作之助
「海風」1940(昭和15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,643 字 · 61 页
門口の狭い割に馬鹿に奥行のある細長い店だから昼間なぞ日が充分射さず、昼電を節約した薄暗いところで火鉢の灰をつつきながら、戸外の人通りを眺めていると、そこの明るさが嘘のようだった。ちょうど向い側が共同便所でその臭気がたまらなかった。その隣りは竹林寺で、門の前の向って右側では鉄冷鉱泉を売っており、左側、つまり共同便所に近い方では餅を焼いて売っていた。醤油をたっぷりつけて狐色にこんがり焼けてふくれているところなぞ、いかにもうまそうだったが、買う気は起らなかった。餅屋の主婦が共同便所から出ても手洗水を使わぬと覚しかったからや、と柳吉は帰って言うた。また曰く、仕事は楽で、安全剃刀の広告人形がしきりに身体を動かして剃刀をといでいる恰好が面白いとて飾窓に吸いつけられる客があると、出て行って、おいでやす。それだけの芸でこと足りた。蝶子は、「そら、よろしおまんな」そう励ました。
剃刀屋で三月ほど辛抱したが、やがて、主人と喧嘩して癪やからとて店を休み休みし出したが、蝶子はその口実を本真だと思い、朝おこしたりしなくなり、ずるずるべったり店をやめてしまった。蝶子は一層ヤトナ稼業に身を入れた。