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うしなわれたはんしん

失われた半身

豊島 与志雄

「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页

青空文庫

寝床にはいるし……とにかく、不潔だよ。」

おれの眼には、木村栄子の磨きすました、香水の香りのしみた肌が、ちらついていた。女学生なんかとは比較にならない。

「そんなことを言えば、僕たち、男の学生だって、清潔とはいかないよ。問題は、精神だと思う。男女間の愛情にしたって、肉体を超えたところに在るんじゃないかね。」

「なあに、愛情は単に性慾の変形に過ぎない。近頃流行の言葉をかりれば、肉体が思考する、ただそれだけのことじゃないか。」

「僕はそうは思わないね。肉体は慾求はするが、思考はしない。思考するのは精神だ。その証拠には、肉体的なものには一定の限界があるが、精神的な思惟は無限に進展するよ。」

「それは抽象論だ。僕にとって最も大切なのは、現実だ。先ず現実を直視し、掘り返さなければ、いつまでたっても精神の空転に終る。」

「然し、現実を整理するのは……。」

「もう分ったよ。現実を整理するのは精神、現象を整理するのは意識、そして整理された秩序の中で、思惟は無限に進展する……感性に対する知性の優越……それもよかろう。然し僕は、僕はだね、僕たちの歯も爪も立たず、僕たちを体ごと撥ね返すようなものが、現実の中にあることを、決して見落したくない。