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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

11 運命の釦

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,033 字 · 22 页

青空文庫

「こう毎日毎日水泳禁止じゃとてもやり切れないわ。なんのために不自由な思いをして、海岸へ来ているんだかわかりゃしない」

そんな事を云いながら、例の赤い頭巾、黄色い水着で荒天の海へ、何んの恐れる色もなく出て行ったのです。奉公人達が一生懸命で止めたところで、それに一顧も与えるようなヤワなお姫様ではありません。

思わぬシレーヌの出現に、浜はサツと桃色の霞が棚引きました。若い男という男は、すわこそ敵が――で、銘々の海水着を投げ掛け投げ掛け、妖精のハムミングを慕って所在の洞穴、藪蔭、安下宿から五月雨時の蟹のようにめいめい装いを凝らして、ゾロゾロと這い出して来たのです。

土用浪の凄まじさや恐ろしさは、私がここでお話する迄もないでしょう。この土用浪の砕けて沸き返る赤黒い潮の中へ、パッと飛込んだ美奈子は、暫らく得意の綺麗なブレストを見せておりましたが、やがて沖から小山のように押し寄せて来た巨大な浪が、数十尺の真黒な屏風を押し倒したように、あっという間もなく、美奈子の上へ崩れたのです。

葛飾北斎が描くところの、神奈川の沖浪、――あの悪魔的な水の巨塊が、恐れを知らぬ少女皆川美奈子を押し包んで、サッと龍宮までもさらって行くのでしょう。