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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
10 暴君の死
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,841 字 · 22 页
「名前は何んという」
大膳正は初心な客のようでした。すっかり悦に入って、先ず盃を取って娘に酌などをさせます。
「――何、梅と申すのか、よい名じゃのう、領内の何処だ、親は何んという」
大膳正は盃を重ねながら、問わでものことを訊ねます。娘の酌の手振りは見事ですが、口数は至って少く、多くはその多彩な表情と、行届いた動作で返事をするといった有り様です。
暫らくすると、大膳正は頓に酔が発した様子で、足取危うく娘の手を取って隣の部屋に入りました。
「来い、可愛がって取らせるぞ」
グイと引寄せて、内懐へ抱え込んだ娘、それは実に大膳正にとっては、何んの防ぎも無い、致命的な一瞬でした。
「己れッ」
声はもう男でした。大膳正を突き飛ばすと、キラリと娘の手に光ったのは、毒蛇のような匕首。
「曲者ッ、ブ、無礼だぞッ」
それは併し、死物狂いの最後の声でした。左胸先を深々とえぐられて、白綸子の夜の物を真紅に染めた大膳正は、蚊帳の上へドッと倒れると、四つの釣手を切って、波の中の醜い魚のように、のた打ち廻って断末魔の苦しみをもがくのです。
「馬鹿ッ」
娘は吃と身構えました。が、この醜い魚は最早起き上る力も尽きた様子です。