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おくのうみ

奥の海

久生 十蘭

「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页

青空文庫

土着の人間のほか、あまり旅人の往来のないさびれた街道なので、知嘉姫ほどの容姿のすぐれた女性が通ったとなれば、評判にならぬはずはないのだが、そこにも手がかりがなかった。

運悪くひき戻されたのか、わずらって死んだか、気を変えて古山道へ入り、胆沢街道を上って行ったかと思うほかなくなった。

海道について北に行くと、八戸二万石、南部左衛門尉の在所がある。もしやそこにでもと、海道の村々を念入りにたずねながら八戸へ行き、そこに夏のはじめまでいて、尻内へ廻った。

このうえは、野辺地まで行ってみるほかはないと思っているとき、尻内の馬喰宿で、はじめてほのかな手がかりがあった。去年の秋ごろ、京なまりの女の修験者が、奥津の村に流れてきて、修験の合間に、川に出てますをとっているという。

ようやく行きあたった思いで、奥湊へ行ってみると、姫は姫だが、花園という、蔵人頭のむすめで、烏丸中納言のおむすめは、壬生少将のおむすめと二人で、奥羽街道を上っていらっしゃったという、意外な返事だった。

金十郎も鉾先を折り、尻内へ帰ってぼんやりしていたが、いろいろと考えあわせると、笹木野の萱の中からものを言いかけたのが、知嘉姫だったように思えてならない。