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おくじょうねんだけのぜってんにたつき
奥常念岳の絶巓に立つ記
小島 烏水
「中學世界 第十卷第七號」博文館、1907(明治40)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,541 字 · 11 页
雲の表の、一片の固形塊で、槍ヶ岳は背後より、穂高山は足の方より、大天井岳は頭を圧すばかりに、儼然と聳立して、威嚇をしている、僅にその一個を存するとも、猶以て弱きを圧伏するに足るのに、ここに三個を並存している。
自分が少くとも、この一夜に於て、何よりも、誰よりも、最も親しむべき保護者として頼める善作は、呼吸を窒められたかと疑うばかりに、安々と寝ている、我と彼とは隣り合っているというだけで、自分の心中の恐怖は彼の冷然、化石の如き不可導熱体に波及しないから、二人の間は、全然没交渉である、「無邪気は、強し」とはワーズワース詩中の一句である、彼の恭謙なる、昨夜までは自分に事うること、主従の如くであったが、ここに至って無邪気なる彼は、いつの間にか自分の生命から二番目の赤毛布――山中唯一の防寒具――を奪って、スッポリ頭から冠って快く寝ている、自分も寒いから、痩腕の力限りに毛布の端を引ッ張ってみたが、びくとも動かない、寒気は彼をして、真個の正直者となさざれば止まなかったのである。
併し流石に敲き起して毛布を奪い返えすまでに、自分も従容と寝てはいられないのである、石で風を抑えた