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おんなとぼうし

女と帽子

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,614 字 · 33 页

青空文庫

」

「芸者衆にきいて、電話をしといてもらったんですの。」

それだけで、話はとぎれてしまった。暫くしてから、波江は眉根をぴくりとさし、急に顔を赧くしながら云った。

「あたし、もう帰りますけれど、あなたはここで、ゆっくりやすんでいらしたらいかがです。」

「いや、僕も帰ります。」

それでもなんだかぐずぐずして、然し御飯には手をつけず、やがて波江は床の間の電話器をとって、勘定書を求めた。

出かける時に、女中を先にたたせておいて、今村はちょっと躊躇してから、波江の肩に軽く手をやった。そして波江は求めらるるままに、然しきっと結んだままの唇を与えた。

外に出ると、今村は急に、横浜の方まで散歩したいと云い出した。それを波江は冷淡に打捨てて、何か一念に凝ってるようだった。軽く会釈をして、自動車に乗り、もう見向きもしなかった。

今村は通りがかりの自動車をひろい、横浜まで走らせながら、両腕をくみ、眼をとじた。

横浜の海岸の公園まで行った。そして今村は、沖についてる気船を眺めたり、日の光を仰いだり、石垣の上から釣をしてる人の側に長い間立ち止まったりして、それからまたぶらついてるうちに、何かに躓いて倒れかけた。