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おんなのけっとう

女の決闘

太宰 治

「月刊文章」1940(昭和15)年1~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,661 字 · 75 页

青空文庫

)どちらも生きてくれ、と念じていました。

――そうです。それでいいのです。私はあなたの、今の言葉だけを信頼します。(と検事は、はじめて白い歯を出して微笑み、芸術家の肩をそっと叩いて、)そうで無ければ、私は今すぐあなたを、未決檻に送るつもりでいたのですよ。殺人幇助という立派な罪名があります。

以上は、かの芸術家と、いやらしく老獪な検事との一問一答の内容でありますが、ただ、これだけでは私も諸君も不満であります。「いいえ、私は、どちらも生きてくれ、と念じていました。」という一言を信じて、検事は、この男を無罪放免という事にした様子でありますが、私たちの心の中に住んでいる小さい検事は、なかなか疑い深くて、とてもこの男を易々と放免することが出来ないのであります。この男は、予審の検事を、だましたのではないでしょうか。「どちらも生きてくれ、と念じていました。」というのは、嘘ではないか。この男は、あの決闘のとき、白樺の木の蔭に隠れて、ああ、どっちも死ね! 両方死ね、いやいや、女房だけ死ね! 女房を殺してくれ、と全身に油汗を流して念じていた瞬間が、在ったじゃないか。