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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
なにぶんお手やわらかに願いあげまするで」
と存八は住みこむことになって、玄関脇の一室を与えられたのである。
その晩、存八が戸締りにかかっていると、小山内朝之助が音もなく現れて、
「これ、戸締りをいたすな」
「へえ、どなたか御来客で」
「誰もこないが、戸締りをいたしてはならぬ。キサマの部屋も開け放しておいた方がよい。当家は戸締りをいたさぬ例になっておる」
「不要心ですねえ。泥棒がはいりますよ」
「その泥棒を待っているのだ」
朝之助は軽く云いすてて立ち去ったが、存八は突然冷水をあびたようにぞッとした。
その晩は存八、なかなか寝つくことができない。襟元がぞくぞくして身体のシンから冷えるような怖しさがふとさしこんでくるのである。タダモノの棲み家ではない。彼が第一感に感じたことがまさに的中したのだ。
小山内朝之助の端然たる起居動作、悠々と礼にかなって、刑務所の所長や彼を裁いた法廷の判事よりも威厳にみちて紳士的であるが、人間を超えた何かがある。その泥棒を待っているのだと軽く云いすてた言葉は実にさりげないただの言葉にすぎなかったが、怖るべき何かがそこに含まれていることを存八のコソ泥のカンが突き当てたのだ。