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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
法神流はそもそも流祖の楳本法神が諸国の山野を跋渉して秘奥を自得したのに端を発し、須田房吉もまた故郷の山中にこもり風雪に身をさらし巌頭を宿として鍛錬した。そのために小山内家に於ては、この山中の苦業をもって家を継ぐ者の条件とするに至ったのである。
朝之助は青年のころ東京にでて諸流を学び、遊学中に父を失って帰国した。家をつぎ、妻をめとり一子歌子をもうけたが、父が早世したために山中にこもって苦業の機を失ったまま家をついでしまったのである。一子歌子の誕生を見るや飜然として家長の重責に目ざめ、妻子をホーテキして山中に姿を没した。実に歌子が十歳の春を迎えるまで山中の苦業をつづけた。鳥獣をくらい、特に熊を屠ってその肉を食う快味を満喫したということであるが、失踪前はそれほどでもなかった朝之助が、熊にもまさる筋骨となって山中から戻ってきたのはマギレもない事実であった。
彼が戻ってきた時は日支事変の真ッ最中で、まもなく太平洋戦争に突入したが、彼は猛獣なみの怪人狂人と村人に怖れられ、聯隊司令部へもその旨を通達した者があったので、彼が熱望したにも拘らず兵隊となって出征することができなかった。