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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
したがって、戦争中彼の情熱はあげて歌子の育成にささげられた。昼夜にかかわらず武芸を仕込み、春夏冬の学期休みには歌子を抱いて山中に入り、共に鳥獣を屠って食い、風雨に身をさらして鍛錬し、巌頭を宿として苦業したということである。良人と娘とがこの有様であるから、万事につけて不自由で何かと義務の多い戦争中、ひとり家をまもりまた勤労奉仕にかりだされて苦労したのは朝之助の妻で、そのためかめっきり衰え、終戦まぎわに死んでしまった。
敗戦以来剣術が禁止されて、この山奥の朝之助にまで風当りがきびしくなった。農地解放なぞということでは人一倍痛めつけられ、家事を委せきっていた妻の死後のことであるから、これらの甚だ不馴れなことに彼自らかかりきって浮世の汗水にまみれなければならず、日夜悲涙をのまなければならなかった。山中にこもって剣を苦業し鬼神の業を得たといっても肉体と剣の上のことだけで人物は至って純情な朝之助であったが、終戦後めまぐるしい浮世の嵐にもみまくられてからはガラリと別人になってしまった。精神的には全く浮世と隔離して別天地にとじこもるようになり、言葉づかいなぞも武芸者の言葉に似るようになり、一見したところ甚だしく浮世の礼にたがわず挙止端正をきわめるようでありながら、異様な妖気を全身に漂わすに至った。