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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
もとより鳥獣との闘いには馴れている朝之助のことだから、正一郎を組み伏せても、キンタマをつぶされたり、ノド笛にかみつかれたり、目玉へ指を突ッこまれたりするような、不覚な体勢は見せたことがない。正一郎は舌をまいたのである。名人だと思った。
正一郎の奇怪な剣法は師を惑わすには至らなかったが、歌子はしばしばワナにかかった。正一郎はケダモノの剣法である。ケダモノはワナにかかるが、正一郎は人間でもあるから、自分がワナにかかったとみせて相手をワナにかける術を心得ていた。つまり負けたフリをするのである。否、すすんで一応負けることが大切だ。肉を切らせて骨を切るのだ。彼はすすんで自分の片腕やお尻を切らせ、そのヒマに自分は敵のノド笛にかみつくような戦法に先天的な技巧があった。この戦法と技巧は歌子に活眼をひらかせた。もともと女子は目玉を突いたりノド笛にかみついたりする本家本元の戦士なのである。ケダモノと同じように彼女らはおのずからそのように戦う技法にめぐまれている。歌子はそれまでの基本的な修練の上に自己本来の技法について活眼をひらき、にわかに数段の飛躍を示すに至ったのである。