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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
その心境が存八に対する今の歌子の心境ではないかと察して、朝之助は思わずブルブル身ぶるいした。獅子にも虎にもたじろがぬ朝之助がブルブルと身ぶるいするのは知れたこと、彼は歌子をわが子としても女としても至上の物と思いつめていたからである。
その日から、朝之助の心は千々にみだれた。春がきた。山の熊も冬眠からさめる春である。草木の芽ばえ花さく春だ。人の心もそぞろ浮きたつ季節であるから、山野の霊気を満身にはらんだ朝之助が猛獣よりも春に目ざめたとしてもフシギではない。
しかし、朝之助には父の心も、家長としての責任感も、その身体の逞しさと同じぐらい逞しくみなぎっていた。歌子を誰かしらと結婚させないわけにはいかない。第一に、結婚させなければ小山内の家も、法神流の剣法も絶えてしまう。
結婚させるとすれば存八か寺田のほかに相手を考えることができないが、二人のいずれをとるかといえば、朝之助も存八をとる。寺田との立合い以来、彼も身を入れて存八に稽古をつけてやるようになったが、別して歌子が激しい稽古をつけている。常住坐臥稽古をつけられているようなもので、特に父が不在の際には命がけの稽古のほどが思いやられるから、存八の上達には見るべきものがあった。