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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

しかし存八もタダならぬ歌子の気勢に警戒は怠らなかったので、辛うじてかわして、逃げ腰に構え、

「なにを、なさる」

「お前は留守中にずいぶん傲慢になりましたね。さだめし上達したからでしょう。私が相手になってあげる。さ、おいで」

「木刀はダメですよ。稽古をつけて下さるなら、面小手をつけてやらせて下さい」

「エイッ!」

腰骨にうってかかった。半分かわしたが、したたかな一撃。二撃三撃とこの木刀でやられては命がないから、無我夢中、存八は木刀をすてて身を投げるように武者ぶりついた。一晩ねずに歩いて来た歌子は疲れきっているから、組み打ちになって互格の格闘がつづいたが、存八の奴、勝つ気持がないから非常に強い。体を密着させて蛸のようにからみついていさえすれば致命的な一撃はさけられるから、ただもう強打を喫しない蛸作戦。しかし、いかに要心しても体格も技術も上の歌子に対しては勝味がない。次第に存八の疲れるのを待って、ついに敵の指をとった歌子、指の逆手。これはたしかレスリングでは禁手になっているようだが、日本古来の柔術では指の逆手に数々の秘技がある。まことにどうも素人では受けようのないヤッカイな攻撃だ。