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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

これを木刀に仕上げるのに小半日かかるのである。それから再び充分に鍛錬を行って、心気を澄ませ、心気の最も充足した頃を見はからって、木刀をひっさげてこの巨石に立ち向うのである。それは夕方の時もあるし、とっぷり夜の落ちてからの時もある。

この巨石の凹みの一点に向って相対し、一分、二分、また五分、また十分、ついには脂汗がしたたっても打ち下すことのできない時がある。その時には再び心気を鎮めその充足を待って改めて必死の覚悟で立ち向うのである。

彼はこの巨石を木刀で打ち割ろうというのだ。そういう悲願をたてたのだ。しかし、いかに法神流の極意の腕でもこの巨石が割れる筈はないから、折れるのは木刀の方だ。彼の腕はしびれる。否、脳天もしびれ、胸はつかえ、腰は跳ねて、ひっくり返って失心状態になる例であった。したがって、毎日木材をさがして木刀を造らなければならない。そして脳天がしびれてひッくり返らなければならないのだ。

彼がこういうバカげた悲願をたてたのには、重々尤も千万なワケがあるのだ。彼はかの雑兵を切断して谷底に葬りカンラカラカラと哄笑して心気甚だ爽快に娘の帰宅を見送ったのだが、すでにその日のたそがれ時から悩みに沈まなければならなかった。