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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
「三年間物を言わないことにしよう」
こうきめた。そして誓を立てたのだ。たらふく食う。そしてねむる。物を言わない。こういう誓だ。要するにタタミにとまったトンボなのだ。山の石にとまっていたトンボが里へ住みかえるだけの話だ。そのうちに、いつか人間に戻ることができたら、そのときはまた何とかしようと思う気持もあったが、あの一物を失ったようにもはや全てを失ったという切なさを感じることが強すぎる。あの一物は全てであった。もはや全てを失ったのだ。そしてトンボになってしまった。彼は腰をひきずって山を降りた。
★
山から降りた歌子は、山にいたころ里のことを考えた時のやさしい気持をみんな失っていた。あのころのやさしい気持は思いだすこともできない。下界は愚劣そのものだ。
存八が事もあろうに一流の武芸者然と軽く寺田を打ち倒した高慢な様を認めた時の歌子の激怒はその場だけのものではなかったのである。日がたつにつれて、だんだんたかまる一方だった。
もはや歌子は存八について考えるたびに、あのいやらしい高慢な様をはなれて存八を思いうかべることができない。今さら存八がどのように小さくなっても、あの高慢な様をはなれて存八を見ることができないのだ。