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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
釜のうしろへ逃げてきてブルブルふるえていた可愛い存八はもはや存在しないのだ。歌子はバカらしくて、そんな存八はもはや考えてみる気にもならなかった。歌子は気が立つごとに、木刀をぶらさげて気がすむまでは一日中でも存八を追いまわしていた。存八は逃げるばかりが能ではなくなり、いくらかは身をかわすことも、太刀をうけとめることもできるようになっている。隙があればつけいるぐらいの手筋や気合を見せることもある。これがまた歌子を一そう怒らせた。
時日のわりに存八の上達は見るべきものがあったが、幼少から筋の正しい剣を仕込まれている歌子にはとうてい勝てない。結局ポカポカぶん殴られてしまう。その日のお天気次第で、このポカポカが一日に何度も何度もくりかえされるから、存八の全身はコブまたコブ。傷また傷。コブの上にまたコブ。存八は仕方がないから真夏のさかりでも厚く綿をつめた刺子をきて、同じく綿入れの手甲、スネ当てを一着、同じく厚く綿をつめた飛行帽のような面をかぶっている。この装束を寝た間もはなせない。これだけの装束をしていても木刀の乱撃をうけたあげくに七転八倒あるいは悶絶をまぬがれがたいのである。