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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
バカバカしさを通りこして、歌子は妖しさにうたれた。
「さすがに、お父さま。この無為無防の姿こそ秘剣の構え、玄妙極意の境地かも知れない。ああ、つたなかった。よくも会得なされたなア。無為、無言。ああ、気がつかなかった。なんという気高いお姿」
その気持で見れば、イワシの頭も信心から、このダラシのない姿でもなんとなくそう見えるから、歌子はすっかり感動して、
「では、参ります。お父さま」
木刀を構えて、エイッ、と打ち下した。坐りながら睡ってしまった朝之助、グラリとひッくり返ったから、木刀はそれて肩をうった。その時には朝之助、小さな呻きと、大きな屁をたれた。ともかく家へ戻ってはじめての人語ではないが、呻きをもらした。それが最期であった。朝之助は再び生き返らなかったのである。
しかし歌子は父が武芸の玄妙を示して死んだと思いこんでいた。身をもって武芸の玄妙を示したのだと思ったのだ。
まさに打ちおろす一瞬にグラリとゆれて岩の如くに倒れた自然さ。歌子の狙いきめたあの太刀が肩しか打てなかった。大自然、大自在、無碍の境、人智を絶した円熟の境地だ。これを示して、そして火の消ゆるが如くに息絶えた父は、まさに天地カイビャク以来の大往生であろう。