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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页
私は柿沼に反感をこそ懐け、一片の愛情も持ってはいませんし、また、あなたにそっと打ち明けましたように、もうだいぶ前から口実を設けて、柿沼とは性的交渉を絶っていました。それなのに、伯母さんの家へ一度も柿沼が私を訪ねて来なかったことを、どうして気にかけたのでしょうか。
外でもありません。私は柿沼をなんだか怖がっていたのです。あなたは柿沼をよく御存じありませんけれど、あの人のうちには、なにか重苦しいもの、陰鬱なもの、凶悪らしいものがあります。悪人だとさえ思われることがあります。表面きって私と喧嘩することもなく、私を怒鳴りつけることもなく、癇癪を起すこともなく、いつも黙ってじっとしておりますが、心の中ではどんなことを考えているか、どんなことをたくらんでいるか、それが私には恐ろしいのです。しごく冷静に計画的に、ひとを殺すことさえしかねないと、私はぞっとすることがあります。
そういう危惧の念、不吉な感じは、あの人の実体……と申してはへんですが、あの人の身体が、遠くにかすんでゆくに随って、ますます濃くなって私につきまとってくるように思われました。いつも私は、あの人の眼からではなく、あの人の持ってる不吉なものから、狙われているような気持ちでした。