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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

」とも言った。

「梧郎さん、恋愛でもなすってるようね。そんなら、早く結婚なさいよ。」とも言った。

「梧郎さん、身体でもおわるいの。医者に診てお貰いなさいよ。」とも言った。

梧郎はただ笑っていた。夜更しをし、朝寝をし、食欲は乏しかった。あまり朝寝坊をしていると、五つになる男の児がやって来て、彼の布団の上に乗っかって飛び跳ね、むりやりに起した。嫂の指図なのだ。

自分自身をもてあますのが、情愛に憑かれた者の常態なのであろうか。心はいつも、遠いところ、山のあなた、空のかなた、海のはてに、愛する者の面影を偲び、身体だけが現実の世界に残って、やるせない彷徨をする。長谷川は、一週間ばかりの間に、普通の場合の一年間分ぐらいも、東京の街路を歩き廻った。

そのことが、長谷川自身にも、顧みて意外だった。千代乃との関係は、ふとしたチャンスから萠した愛欲で、それが次第に深みに陥っていったのだと、安易に考えていたのだが、その安易な無抵抗な気持ちが、却って彼をぬきさしならぬところへ引きずりこみ、身も心をも捲きこんでしまった。ただ一つ、これは普通の恋愛とは違う、という感情があった。