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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页
「いつまでも、愛してね。」
長谷川は彼女の額に唇をあてた。彼女の頬には涙が流れていた。
「さあ、もっと飲みましょう。」
彼女は涙を拭いて、頬笑んだ。それから鞄を開いた。ウイスキー、チーズやハム、菓子や果物、サイダーまであって、それらを彼女は卓上に並べた。
「お夜食よ。」
もう遅かったし、女中たちは先刻、隣室に布団をのべて、引きさがってしまっていた。
そしてその夜、千代乃はいつになく積極的だった。それも単に愛欲ばかりではなかった。全身を以て彼にまといつき、彼に密着し吸いつき、少しの隙間をも残すまいとし、彼の中に溶け込もうとした。凍えた者が温い毛布にくるまるように、彼の肉体で身を包もうとした。
「ね、もっともっと、あなたの愛情でわたしを清めて。」
わたしというのは、彼女の心や精神ではなく、肉体だった。肉体と肉体との接触が、肉体を清めるのであろうか。長谷川は自分の肉体の清らかさを感じた。彼女の肉体の清らかさを感じた。もう彼女の肉体は穢れてはいなかった。彼の肉体に密着して、彼女はうっとりとしていた。
穢れは、いやらしい影は、遠くに去っていた。それはもう、柿沼の許に脱ぎ捨てられていた。