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じょなん

女難

国木田 独歩

「文藝界」1903(明治36)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,695 字 · 45 页

青空文庫

『まアここへ坐って下さりませ、私はちょっと出て来ますから』と言い捨てて行こうとしますから、

『なんだ、なんだ、私はいやだ、一人残るのは』と思わず言いますと、

『それでは坐って下さらんのか』と言ってこわい顔をして私を睨みました。私が帰るといえばすぐにでも蹶飛ばしそうな剣幕ですから私も仕方なしにそこに坐って黙っていますと、娘は泣いておるのです。嗚咽びかえっているのです、それを見た武の顔はほんとうに例えようがありません、額に青筋を立てて歯を喰いしばるかと思うと、泣き出しそうな顔をして眼をまじまじさせます。何か言い出しそうにしては口のあたりを手の甲で摩るのでございます。

『一体どうしたのだ』と私も事の様子があんまり妙なので問いかけました。しますると武がどもりながらこういうのでございます。妹が是非あなたに遇わしてくれと言って聞かない、いろいろ言い聞かしたがどうしても承知しない、それだからあなたを欺して連れて来たのだ、どうか不憫な女だと思って可愛がってやってくれ、私から手を突いて頼むから、とまずこういう次第なのです。馬鹿馬鹿しい話だとお笑いもございましょうが、全くそうでしたので、まず私が村の色男になったのでございます。