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じょなん

女難

国木田 独歩

「文藝界」1903(明治36)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,695 字 · 45 页

青空文庫

自分は小川の海に注ぐ汀に立って波に砕くる白銀の光を眺めていると、どこからともなく尺八の音が微かに聞えたので、あたりを見廻わすと、笛の音は西の方、ほど近いところ、漁船の多く曳き上げてあるあたりから起るのである。

近づいて見ると、はたして一艘の小舟の水際より四五間も曳き上げてあるをその周囲を取り巻いて、ある者は舷に腰かけ、ある者は砂上にうずくまり、ある者は立ちなど、十人あまりの男女が集まっている、そのうちに一人の男が舷に倚って尺八を吹いているのである。

自分は、人々の群よりは、離れて聴いていた。月影はこんもりとこの一群を映している、人々は一語を発しないで耳を傾けていた。今しも一曲が終わったらしい、聴者の三四人は立ち去った。余の人々は次の曲を待っているけれど吹く男は尺八を膝に突き首を垂れたまま身動きもしないのである。かくしてまた四五分も経った。他の三四人がまた立ち去った。自分は小船に近づいた。

見ると残っている聴者の三人は浜の童の一人、村の若者の二人のみ、自分は舷に近く笛吹く男の前に立った。男は頭を上げた。思いきや彼はこの春、銀座街頭に見たるその盲人ならんとは。