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よいてがみ
好い手紙
岡本 かの子
「女性」1925(大正14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,105 字 · 5 页
男。(少し女に遠慮するごとく、しかし、事実ほんとうに無関心らしく。)別に何とも。(煙草をふかす。)
女。(かなり複雑な表情、やがてまったく軽蔑の表情に変りて。)生意気云ってるわよ。あなたなんかが、かりにも一人の淑女に、こんな真剣な手紙を貰う資格がありましたかよ。六年前、二十の年に兄様の亡くなられたあとへ田舎から出て来たあなたといったら、まるで犬ころの様な不様な田舎男だったじゃないの、私が淋しくって、ふっとあなたが可愛くなったからこそ、こんなに手塩にかけて、見違える様な男に仕立てて上げたじゃないの。それをさ、自分独りで、こんな立派な男になったかなんぞの様な気位でもって、こんな真剣な手紙を鼻であしらうなんて…………(また、手紙を拾い読みながら、喜悦の表情をもて室の空所を行き来しつつ独白。)おお、まったくだ、芸術的奇才と、普通紳士との温情! 優美にして進取、健実! まったくだ、死んだ夫に実現せられたかったものをこの弟で…………それには夫に捧げることを忘れていた私の芸術的パッションまでをこの弟の方へ遣ってこその理想の実現である。まったくこの男には何にもなかった。