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こうじんぶつ

好人物

豊島 与志雄

「読売評論」1950(昭和25)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,567 字 · 21 页

青空文庫

私はその夜、やけに酒を飲んでやった。

数日後に知ったのだが、その翌日、三千子はムラサキから姿を消した。関西の方へ行ったというだけで、はっきりした行く先は、高木も菊ちゃんも知らない、というのが真実らしかった。

高木の後援で、菊ちゃん――山本菊子が、ムラサキの店を経営することになった。これは若いけれど、近代的な朗かな性質で、好人物の高木にはいい相手だ。そして店の名もサロン・キクと改めて、洋酒を主とする方針に変った。

「どうも、ムラサキなんて名前はいかんね。やはりサロン何とかがいい。」

高木はそう言って、にこにこ笑いながら、ウイスキーのグラスをなめた。おひと好しの彼がそんなことを言うのを、私は感慨深く聞いた。現代的なおひと好しとでも言おうか、菊ちゃんと彼との間は、どう見ても怪しい関係はなく、将来とも清らかにゆくだろう。現代的なおひと好しに打ち負けてしまったムラサキのマダムの面影が、私の眼には悲しく見えてくる。