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こうじんぶつ

好人物

豊島 与志雄

「読売評論」1950(昭和25)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,567 字 · 21 页

青空文庫

僕は煙草をふかしながら外を眺めた。

「わたし、もう来なくていいわね。」

まるであべこべだ。

「来なくていいかどうか、それは君の都合次第だよ。」

「そう。そんなら、もう壁も乾いたから、泊めて頂かなくていいわ。お宅の高いお米を食いつぶしに来なくても、よくなりました。」

「米のことなんか、どうだっていいよ。」

「お米のことじゃありません。お宅のお米を食いつぶしに来なくてもよくなりました。こんなことを言っても、あなた、なんともお思いにならないの。」

それが、何のことやら僕には分らなかった。ただ、彼女全体の感じが、冷たく、しゃちこばってるようなのは分った。ヒステリー気味なのかも知れない。いつもと違って、僕の方でお茶をいれてやった。

「では、今晩からもう参りません。」

「ああ、どうでも、自由にしたがいいよ。」

まったく、自由に振舞うのが一番よろしいのだ。

だいぶ長く黙ってた後で、彼女は立ちかけたが、また腰を落着けた。

「では、そういうことにしましょう。それから、少しお願いがありますの。」

ちと金に困ることが出来たから五万円ばかり用立ててくれないかとのこと。先に十万円用立てて貰ったから、都合、十五万円拝借することになるそうである。