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ようふ
妖婦
織田 作之助
「風雪 三月号」1947(昭和22)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,892 字 · 14 页
兵児帯が解けていた。安子はそのうしろ姿を見送りながら、
「いやな奴」と左の肩をゆり上げた。
ところが、次の日曜日、安子とお仙と一緒に銭湯へ行っていると、板一つへだてた男湯から水を飛ばした者がいる。
「誰さ。いたずらおよしよ」
安子が男湯に向って呶鳴ると、
「てやがんでえ。文句があるなら男湯へ来い、あははは……。女がいくら威張ったって男湯へ入ることは出来めえ。やあい、莫迦野郎!」
男湯から来た声は健坊だ、と判ると安子はキッとした顔になり、
「入ったらどうするッ」
「手を突いて謝ってみせらア」
「ふうん……」
「手を突いて、それから、シャボン水を飲んで見せらア」
「ようし、きっとお飲みよ」
安子はそう言うといきなり起ち上って、男湯と女湯の境についている潜り戸をあけると、男湯の中へ裸のままはいって行った。手拭を肩に掛けて、乳房も何も隠さずすくっと立ちはだかったまま、
「さあ入ったよ。手を突いてシャボン水お飲みよ」
健坊は思わず顔をそむけたが、やがて何思ったかいきなり湯舟の中へ飛び込んで、永いこと潜っていた。
「なにさ。あたいは潜れと云っちゃいないわよ。シャボン水をお飲みと言ってるんだよ。