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ようふんろく

妖氛録

中島 敦

「中島敦全集 第四巻」文治堂書店、1959(昭和34)年6月刊

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,005 字 · 11 页

青空文庫

二人の見出したものは、底意の無さそうな、唯淫らな、脂下った笑い顔である。二人はホッと胸を撫下した。数日後には、二人とも亦霊公に自分等の媚めかしい肌着を見せる迄、大胆になって来た。

洩冶という直の士が霊公に直言した。「公卿淫を示さば、臣効うこと無からんや。且つ、聞令からず。君、其れ、之(夏姫の肌着)を納めよ。」(公卿が淫を示せば、下々の者も之に効う懼れがあります。それに第一、外聞も悪い事ですから、何卒、そういう真似だけはおやめ下さいますよう。)

実際、当時の陳の国は、強国晋と楚との間に挟まれ、一方に附けば、一方の侵略を受けるという有様で、女狂いどころでは無かったのである。霊公も「我能く改めん」とあやまる外はなかった。併し、孔寧、儀行父の二人が、上を畏れざるの臣は除かねばならぬと主張した。霊公も強いては止めない。翌日、洩冶は何者かに刺されて斃れた。

やがて、人の良い夫の御叔も妙な死に方をした。

霊公と二人の上卿との間には、嫉妬というものが殆ど無かった。嫉妬の生ずる余地の無い迄に、夏姫の周りに立罩めた雰囲気が彼等を麻痺させていたのである。

三人の憑かれた男が、或日、夏姫の家で酒を飲んでいると、夏姫の子の徴舒が前を過ぎた。