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ようふんろく
妖氛録
「中島敦全集 第四巻」文治堂書店、1959(昭和34)年6月刊
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,005 字 · 11 页
その後姿を見ながら霊公が行父に言った。「徴舒はお前に似てるぞ!」行父は笑って直ぐに酬いた。「とんでもない。御主君にこそ似ていらっしゃいますよ。」青年夏徴舒は二人の言葉をはっきりと聞いた。父の死に対する疑惑や、母の生活に対する憤懣や、自己の運命に就いての屈辱感や、そうしたものが一時に火となって、彼の中に燃え上った。宴が終って霊公が出て行く時、忽ち一本の矢が飛来って其の胸を貫いた。遥かに離れた廐の闇の中から、爛々と燃える夏徴舒の眼がのぞいている。絶望的な怒りに顫える其の手には、既に、第二の矢が番えられている。
孔寧と儀行父は惶れ慌てて家にも戻らずに、直ぐに其の足で楚国へ難を避けた。
当時の慣いとて、一国に乱が起ると、それを鎮めるという名の下に、必ず他の強国の侵略を受ける。陳の霊公が弑せられたと聞くや、楚の荘王は直ちに軍を率いて、陳の都に入った。夏徴舒は捕えられ、栗門という所で車裂の刑に遭った。陳国の乱の因になった夏姫は、はじめから楚の将士の好奇の眼の的になった。毒々しい妖婦的な容貌を想像していたのに、案外平凡な物静かな女を見出して、失望した者もいる。