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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
「姉さんにはほんとにわがままばかりいって、ごめんね。何とかして御恩返しするつもりだけど、とにかくしばらくまってね。正ちゃんも気をつけてね。もうこんどはいつ会えるかわかんないわ。」
ミネは、ふん、ふんと一言ごとにうなずいた。三人とも涙ぐんでいた。東海道線のホームへの広い階段を上りながら閑子は何度もふり返って別れをおしんだ。別れるまぎわにいつもやさしくなる閑子だと思いながらミネも手をふった。リュック・サックが見えなくなっても、ミネはしばらく立っていた。もしや閑子が思い出しものでもしはしまいかと思ったからだ。しかし閑子はもどってこなかった。ミネは正子と手をつなぎ、だまって引きかえした。リュック・サックの閑子の姿がちらつく。あっちこっちと、よくしょわれて、閑子と一しょに旅をつづけているリュック・サックだ。嫁入りにも、女中奉公にもついてゆくリュック・サック、いつそれは中身を出されて畳まれて、平べったくなって用がなくなるだろう。いつそんなときが彼女の上にくるのだろうか。
こうして別れた閑子であったが、四日の後にはもうミネの前に現れた。夜汽車の煤煙ですすけた顔を洗いもせずに、閑子は腹立たしそうにいう。