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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
その日その場で女の醜態をさらけ出して閑子はたたかったのだろう。そのてんまつはのべません、と野村にかかせねばならぬほどそれはいやらしさの極点であったろう。野村の心をますます冷えさせる程閑子は馬鹿になったろう。子供をふるえ上らせる程閑子は夜叉になったろう。そして結局は水をぶっかけられた野良犬のようににげてこねばならなかったのだろう。野村の以前の家庭を評して彼の知人の一人はいった。野村の家族は外に向って囲いをすることにかけては実に一致団結天才的だというのだ。それがほんとうならば閑子はあの日、そのはりめぐらされた鉄条網を破ることが出来ず、狂犬のようにほえ立てたのかもしれぬ。ここまでくれば、いつかの夜、別れを悲しんで泣いて嘆いた子供たちも、もう閑子を父親との共同の敵としてしかながめず、閑子と一しょに暮した二か月の間にうけとめた閑子の欠点は欠点だけが特別に心の中で次第に大きく育っていったかもしれぬ。その欠点の中に閑子のいびきはことに大きく大きくひびいたにちがいない。不幸な閑子である。しかしそのごの閑子がイビキをかかないという正子の言を信じるなら、そしてそのイビキをミネの場合と比べて考えるなら、野村の家での生活は閑子にとって疲労だけがプラスになっていたとはいえないだろうか。