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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

老作家の山中啓二が野村のために結婚の相手を心配しているということだった。それをきいたときミネは、半分自慢で、

「ほらね、いったでしょ、いつか。」

と、にこにこした。何のかげりもない気持だったのだが、貞子と別れてしまうと、やはり閑子のことが気になった。もしも閑子の耳に入ったなら、やはり彼女は心を波うたせずにはおけぬのではないだろうか。そんなことを考えながら家に帰ると、閑子は例のモンペ姿で畑の中にしゃがんで、春まきの野菜の種をしらべていた。野村と別れて二度目の春なのに、それはまるで変化のない去年のままの姿だった。彼女の丹精した草花たちも、去年と同じように春の陽気をうかがうように赤い芽や青い芽をのぞかせている。それらの野菜や草花を黙々として眺めている閑子は、もう去年の狂態はくり返さず、ようやく気持を郷里の田舎へ向けはじめているのだった。男の立ち上りに比べて、それは何という悲しい、哀れな女の姿であろうか。田舎の家は閑子の持家でありながら、野村との結婚で人に貸したために、帰れば同居の間借人として肩身せまく暮さねばならないのだ。運の悪さはそれだけにとどまらず、転換する時代の風は、働いて暮さねばならぬ女の、猫のひたいにも比べたいほどのたった一枚の小さな畑まで僅かの間に不在地主の理由でもち去られてしまっていた。