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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

この日のために地方から上京してきてミネの家に泊っている支部の若い詩人や、夫の悠吉たちは朝早く家を出た。みんなの弁当の支度に手間どって、ミネはひとりおくれて出かけた。するとなんとなく気らくに歩けた。出がけに娘の正子が一種の同情をもっていった言葉を思い出す。

「お父さんたら悠吉なんて名前のくせに、ほんとにせっかちね。もうあと五分ぐらいなのに待ってくれたっていいじゃないの、わがままね。」

弁当の支度が少しおくれたからといって男はその理由など考えずにどなりつけることができる。女はそうはゆかない。日頃ならどなり返しも出来るのだが、泊っている人に気がねでおとなしく、あとから持ってゆくからといっておくり出したのである。一しょに目がさめても、男は寝床で新聞をよみ、女は起きて台所に立たねばならぬ。男たちが起きて顔を洗っている間に女は掃除をすまし、朝食と弁当の支度をする。それが五分おくれたといって文句をいえるのは男だけで、女は結局三人分の弁当をかかえてあとから出かけることになる。それを夫も妻も不思議と思わず、娘の正子だけが男のわがままと考えている。それだとて女同士のかげ口としてなのだ。