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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
ミネはだまって立ち上り、受付へ悠吉たちの弁当を預けておいて外にでた。羽織がぬぎ捨てたいほどのまぶしい日ざしが、白い道路にあふれている。ゆっくりと歩きながら、ハンカチーフを頭にかぶると、急に涙があふれてきた。野村から貞子への手紙以来、ミネの涙腺は異状を来したように、だらしなくなっていた。閑子のために泣いて泣いて、本当に夜を泣き明したこともある。枕がぐっしょりぬれて、とりかえねばならぬほど涙をすった。
「いい加げんにしろよ、お前のからだがまいっちゃうぜ。」
ミネの嘆きのつきあいをさせられる悠吉が、もてあましていうのへ、ミネは泣き腫した顔を、それでもそのときは笑いながら、
「涙で枕をぬらすなんて、通俗小説の悲劇かと思ったら、ほんとにあるのね。湯のような涙ってほんとよ。こぼれてくるのが本当に湯のようにあついんだもの。それがわき出してくるの。私、生れてはじめてよ。いや、これで二度目だわ。あのときと、ほら。」
あのとき、それは悠吉に、女の問題であるつまずきがあったことをさしていた。それをミネがいうと悠吉はいつもだまって苦笑する。もう十年も前の悠吉たちにとってはよりどころの見失われそうなけわしい時代のことだった。