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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
思案しながら一足一足を交さねばならぬ。しかも思案の一足は決して安全ではない。ミネの足袋はぐるりから泥色に染ってきている。ゴム長でもはいて、堂々と歩きたい思いがする。二度や三度のことではないのにこのぬかるみを忘れていたのが第一におかしい。四月の初めごろまで、少くも一年の三分の一はねったこったのこの道を、誰も何とも出来ない知恵のなさも不思議だ。夏は夏で煙のような土ぼこりの立つ道なのに。つい十年ほど前には畑地の方が多かったといわれるこのあたりの、下水の設備もない、畑つづきのこの道をはさんで、ゆとりのある間隔をおいて人の住居に手ごろな家が並んでいる。建てた当時の制限建坪を正直に守ったような家々は、粒々と倹約を重ねた末のたった一つの財産として大切に考えてきたような階級の人たちを思わせるとりすまし方で、生垣なども几帳面に刈りこまれている。だが、垣根のそとはこの通りなのだ。我身大事と檜葉垣に身をすりよせて、まるで崖ぶちを歩くようにして人々はこの道をゆくのだが、ほっとしたときの足もとはいつも泥だらけだった。みんなそれを知っていて噂をしあう。ミネもその一人である。