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おばすて

姨捨

堀 辰雄

「文藝春秋」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,351 字 · 20 页

青空文庫

それ程老い耄けたように見える父は、女にはいかにも心細かった。女はもう自分の運命が自分の力だけではどうしようもなくなって来ている事に気がつかずにはいられなかった。しかし、そういう境界の変化も、此女の胸深くに根を下ろしている、昔ながらの夢だけはいささかも変えることは出来なかった。女は自分の運命が思いの外にはかなく見えて来れば来る程、一層それを頼りにし出していた。「こういう少女らしい夢を抱いたまま、埋もれてしまうのも好い」――そうさえ思って、女は相不変、几帳のかげに、物語ばかり見ては、はた目にはいかにも無為な日々を送っていた。

「そうやってなんにも為ずにいらっしゃるよりは――」と云って、此頃しきりに宮仕えを勧めて来る人があった。幾らか縁故もあるその宮からも、是非女を上がらせるようにと再三云ってよこしたりした。その宮というのは、今をときめいている一の宮だった。が、昔気質の父母は、何かと気苦労の多い宮仕えには反対だった。女は勿論、父母の意に背いてまで、そんな宮仕えなどに出たいとも思わなかった。しかし、人々が「此頃の若いお方はみんな宮仕えに出たがっておりますよ。