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おばすて
姨捨
堀 辰雄
「文藝春秋」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,351 字 · 20 页
四
ときおり女が三条の屋形に下がって往くと、父母は炭櫃に火など起して、女を待ち受けていた。「おまえがいてお呉れだった時は、人目も見え、婢たちも多かったが、此頃というものは、殆ど人けが絶えて、一日じゅう人ごえもしない位だ。ほんとうに心細くって為様がない。こんな具合では、一体、おれ達はどうなるのだろうなあ」そんな事を父は長々と女に云って聴かすのだった。御前などでは、他の女房たちの蔭に小さくなって、殆どあるかないかにしているのに、そんな自分も里に下りるとこれ程頼もしがられるのかと思うと、そんな事を云う父のみならず、云われる自分までが、なんだかいたわしくってならなかった。
が、五六日立つと、女は又気を引き立てるようにして、宮へ上がって往くのだった。
四
女の仕えていた宮が突然お亡くなりになったのを機会に、女は暫く宮仕えから退いて、又昔のように父母の下でつつましい朝夕を送り出していた。さすがに宮仕えをした後には、女はもう世の中が自分の思ったようなものではない事をいよいよ切実に知り出していた。薫大将だの、浮舟だのが此の世にあり得よう筈がない事もわかり過ぎる位わかって来た。