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むすめ

娘

岡本 かの子

「婦人公論」1939(昭和14)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,846 字 · 16 页

青空文庫

玄関の方に自動車の止る音がして、やがて階段の下で、義弟に当る七つの蓑吉の声がする。

「姉ちゃん、お見舞いに来たよ。おもちゃ持って来てやったぞ」

「いま、階下へ降りて行きます、上って来ないでよ――」

室子は、急いで降りて、蓑吉が階段へ一足かけているのを追い戻して、一緒に階下の座敷へ伴れて行った。

湯殿で身体と顔を洗って来て見ると、蓑吉は座敷のまん中へ、女中にほぐして貰った包みから、沢山のおもちゃを取出して並べている。

郊外にいる室子の父の妾の子であり乍ら、しじゅう、通油町の本宅の家の子として引取られている蓑吉は、折を見つけては姉のいるこの橋場の寮へ遊びに来度がっている。室子が此間じゅう、一寸風邪をひいたと昨日言伝けたのを口実に、蓑吉は早速母親にせがんで、見舞いに来さして貰ったのだった。

室子は縁側の籐椅子で、女中を相手に、朝飯を喰べながら

「蓑ちゃんは可笑しい。姉ちゃんはもう、とっくに風邪なおって起きちまってるのに見舞いに来るなんて」

「でも、来てやったんだい」

蓑吉は、こまごましたおもちゃを並べるのに余念が無い。

「それ、姉ちゃんのお見舞いに呉れたのね、自分で買って来たの」