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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「ええ、どうして泣くです。」

靴音高く傍へ寄ると、河野も慌しく立って来て、

「泣いちゃ不可ませんなあ、何も悲い事は無いですよ。」

「私は貴娘を叱ったんじゃない。」

「けれども、君の話振がちと穏でなかったよ。だから誤解をされたんだ。貴娘泣く事はありません、」

と密と肩に手を掛けたが、お妙の振払いもしなかったのは、泣入って、知らなかったせいであったに……

河野英吉嬉しそうな顔をして、

「さあ、機嫌を直してお話しなさい。」と云う時、きょときょと目で、お妙の俯向いた玉の頸へ、横から徐々と頬を寄せて、リボンの花結びにちょっと触れて、じたじたと総身を戦かしたが、教頭は見て見ぬ振の、謂えらく、今夜の会計は河野持だ。

途端にお妙が身動をしたので、刎飛ばされたように、がたりと退る。

「もう帰っても可いんですか。」

と顔を隠したままお妙が云った。これには返す言もあるまい。

「可いですとも!」

と教頭が言いも果てぬに、身を捻ったなりで、礼もしないで、つかつかと出そうにすると、がたがたと靴を鳴らして、教頭は及腰に追っかけて、

「貴娘内へ帰って、父様にこんな事を話しては不可んですよ。貴娘の名誉を重んじて忠告をしただけですから、ね、宜いですかね、ね。