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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

一盆。

「一杯、二杯、三杯、四杯、五杯!」

早瀬はその数を算えながら、

「ああ、僕はたった一杯だ。婆さん甘酒を早く、」

「はいはい、あれ、まあ、御覧じまし、鳩の喜びますこと、沢山奥様に頂いて、クウクウかいのう、おおおお、」

と合点々々、ほたほた笑をこぼしながら甘酒を釜から汲む。

見る見るうち、輝く玄潮の退いたか、と鳩は掃いたように空へ散って、咄嗟に寂寞とした日当りの地の上へ、ぼんやりと影がさして、よぼよぼ、蠢いて出た者がある。

鼻の下はさまででないが、ものの切尖に痩せた頤から、耳の根へかけて胡麻塩髯が栗の毬のように、すくすく、頬肉がっくりと落ち、小鼻が出て、窪んだ目が赤味走って、額の皺は小さな天窓を揉込んだごとく刻んで深い。色蒼く垢じみて、筋で繋いだばかりげっそり肩の痩せた手に、これだけは脚より太い、しっかりした、竹の杖を支いたが、さまで容子の賤しくない落魄らしい、五十近の男の……肺病とは一目で分る……襟垢がぴかぴかした、閉糸の断れた、寝ン寝子を今時分。

藁草履を引摺って、勢の無さは埃も得立てず、地の底に滅入込むようにして、正面から辿って来て、ここへ休もうとしたらしかったが、目ももう疎くて、近寄るまで、心着かなんだろう。