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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
大巌山の町の上に、小さな溝があるばかり、障子の破から人顔も見えないので、その時ずッと寄って、
「ものを云って下さいよ。」
「…………」
「夫人、」
「…………」
十四
少時――主税ももう口を利こうとは思わない様子になって、別に苦にする顔色でもないが、腕を拱いた態で、夫人の一足後れに跟いて行く。
裏町の中程に懸ると、両側の家は、どれも火が消えたように寂寞して、空屋かと思えば、蜘蛛の巣を引くような糸車の音が何家ともなく戸外へ漏れる。路傍に石の古井筒があるが、欠目に青苔の生えた、それにも濡色はなく、ばさばさ燥いで、流も乾びている。そこいら何軒かして日に幾度、と数えるほどは米を磨ぐものも無いのであろう。時々陰に籠って、しっこしの無い、咳の声の聞えるのが、墓の中から、まだ生きていると唸くよう。はずれ掛けた羽目に、咳止飴と黒く書いた広告の、それを売る店の名の、風に取られて読めないのも、何となく世に便りがない。
振返って、来た方を見れば、町の入口を、真暗な隧道に樹立が塞いで、炎のように光線が透く。その上から、日のかげった大巌山が、そこは人の落ちた谷底ぞ、と聳え立って峰から哄と吹き下した。